
昭和レトロの雰囲気と
母の愛たっぷり
絶品「焼きチーズカレー」

洞爺湖温泉のメインストリートを歩くと、白壁に三角屋根のアンティークな店が目に留まります。小雪の舞う気節。かじかんだ手でドアを開けると、昭和レトロの店内の向こうには暖炉の火が揺らめく。薪の香りがほんのり心地よく、そして温かく迎えてくれます。
ここは、パーラーふくだ。50年以上前から温泉街にあり、長く閉業していた喫茶店の雰囲気をそのままにリノベーション。2014年にオープンした、子育て世代のお母さんたちが切り盛りするコミュニティーカフェです。
地域に、そして旅人に愛される「焼きチーズカレー」や「ジオホットサンド」の優しい味。温泉街の中に、ここにしかない「ホッとする時間」があります。
2度の有珠山噴火を乗り越えた建物
新たな交流の場 温泉街に灯りともす
この建物の最初のオープンは50年以上前。1977-1978年、そして2000年という二つの有珠山噴火を乗り越えてきましたが、長く閉じたままでした。
今の店主がコミュニティーカフェとしてオープンしようと決めた2014年当時は、2000年噴火の影響がまだ残り、温泉街の観光客の入り込みも回復途上。シャッターを下ろしたままの店舗も目立っていました。
高齢の方が寄り合いをする場所も少なくなっていた中で、店主は地域のコミュニティーを作りたいという思いがあったそう。子育て世代でもあり、お母さん同士がゆっくり集まれる場所をと、メインストリートに灯りをともす決断をします。
「パーラーふくだ」の屋号は、この建物で営業していた喫茶店の名前を引き継いだそうです。店内も、かつての照明や装飾をそのまま生かしています。天井の色や石壁の一部も当時のまま。昭和の雰囲気を今に伝えています。
「かつてのパーラーを知っていて『昔来たことがあるの』なんて話で盛り上がってもらえたら」。子どもも年配の方も集える場。それがパーラーふくだの目指すコミュニティーカフェの姿でした。
今では地域の自治会の集まりも開かれているそう。洞爺湖町の高齢の方は割引料金で食事が楽しめるサービスにも自主的に取り組み、昼時はたくさんの笑顔が集い、話に花が咲いています。

洞爺湖温泉街は、TOYAKOマンガ・アニメフェスタの開催などもあり、国内、そして海外からの客足も戻り始めます。そんな中で、今度は新型コロナ禍に見舞われました。コミュニティーカフェという性格上、密を避けるには営業自粛しか選択肢はありませんでした。
「みんなに会いたかった。けど、きっとまた会えるよね」。パーラーふくだは2020年の冬、店を閉めることにしたのです。
時は流れ、パンデミックは収束。温泉街も行き交う人の姿が増えてきました。半面、生活様式や、密を避ける中で地域のコミュニケーションのあり方も大きく変わったそう。「ご高齢の方を中心に、出控えは続いていますが、まちで元気な姿を見て安心することが増えた」と感じた店主は、平日のみの営業で店を再開するのです。
地産地消、懐かしく変わらない味
子どもから年配の方まで笑顔に

パーラーふくだのメニューはどれも、お母さんたちの優しさでできています。「地産地消」「どこか懐かしい」そして「いつも変わらない味」。それらを追い求めて、店主とスタッフで考え抜いた家庭的な洋食です。
焼きチーズカレーは看板メニュー。こんがり熱々の焼きカレーに、たっぷりチーズがとろける一品です。実は、洞爺湖温泉の大手ホテルの元料理長が考案したという秘伝のレシピを受け継いでいるとのこと。
当初はチキンカツカレーなども考えたそうですが、最終的に店主が大好きな卵黄を乗せることに。チーズも国内外の数十種類を吟味し、味の邪魔をしない最適な配分にたどり着いたといいます。
伊達産鶏の照り焼きチキンドリアも人気。鶏肉のうま味たっぷりのモモ肉がごろっと入っていて、照り焼きにしたチキンの味わいと、口いっぱいにホワイトソースとチーズのうまみが広がります。
素材には、地元の農協から仕入れた新鮮な野菜をふんだんに使用。米も、洞爺湖町が誇るブランド米「財田米」を使っているのがこだわり。
注目は、ジオホットサンド。約5000年前からこの地域に住む人に食べられてきた噴火湾のホタテをかたどった「ホットサンドクッカー」を使って仕上げた一品で、洞爺湖有珠山ジオパークの活動に当初から協力。ここにも照り焼きチキンが使われています。
ほかにも、冷製パスタには地元のハーバルランチのハーブソルトを使用。ジンジャーエールやレモネードもすべて手作りで仕上げているそう。
高齢の方も安心して食べられるよう、具材は細かく切る。焼きチーズカレーも、子どもでも食べられるようマイルドに。味付けも濃くなりすぎないよう気を配る。人とのつながり大事にしている、パーラーふくだの愛です。
スタッフは全員、この地域の出身で同世代。このまちで子どもを産み、育てているお母さんたちです。子どもとの時間を大切に、お休みの日は子育てを優先。無理せず営業を続けていく考えです。
「小さなお子さんはいくら泣いても平気。泣くのは当たり前。ゆっくりくつろいでほしい」と、来店を歓迎しています。
パーラーふくだの店内には地元作家の作品コーナーがあり、定期的に作家やセラピストらを集めて体験イベントも開催。人のつながりで、コミュニティーカフェは輝きを増していくのです。

湖は野外博物館 彫刻見ながら散策
小腹が空いたらあったかカフェへ

洞爺湖温泉街のすぐ目の前には、澄み切った青い洞爺湖が広がります。パーラーふくだのスタッフがすすめるのは、自然をステージにした野外美術館。湖を囲むように58基の彫刻が設置されている「とうや湖ぐるっと彫刻公園」は、散策をしながらアートが楽しめます。
「自転車で湖を一周するのも気持ちが良いですよ。アップダウンが少なくて、湖畔の風はとても心地良くて」。車でめぐるなら、湖の西側の高台にあるサイロ展望台を推す声も。変動する大地を見渡せる絶景ポイントです。
子育て世代なら、洞爺湖町の洞爺地区にある財田キャンプ場に隣接する環境省のビジターセンター・洞爺財田自然体験ハウスもおすすめ。バードコールなどのクラフトづくりや、ネイチャーゲームが親子で楽しめるそうです。
有珠山の火山活動が生んだ雄大な自然。「温泉という恵みがあるから、この地域で生きていくことができる。観光客のみなさんも地元の方も、来ていただけるのは本当にありがたい」といい、「ゆったりできる、くつろげる居場所として、子どもから年配の方まで寄り添えるコミュニティーカフェでありたい」。スタッフみんなの思いです。