
チームワークで
道の駅盛り立て
豊浦大好き
女子野球のエース

店長代理 曽川法子さん
洞爺湖有珠山ジオパークを訪れたら立ち寄りたいのが道の駅とようら。国道37号を洞爺湖町から函館方面へ車で向かうと、ほどなく左手に見えてきます。新鮮な海と山の幸の宝庫・豊浦町が誇るイチゴ、豚肉、ホタテといった旬の特産品や、豊浦産イチゴ100%ジャムを使ったソフトクリームなどが大集合する、見逃せないスポットです。
道の駅を運営する豊浦産業振興公社で店長代理を務める曽川法子さん。豊浦で生まれ、小学生時代から野球に打ち込み、夢は女子硬式野球の日本代表入りでした。
大好きな豊浦に戻り、一児の母になった曽川さん。道の駅でもチームワークで魅力アップに取り組んでいます。追い続けた野球への夢の行方は? そのドラマに迫ります。
女子硬式野球の五輪代表が夢
クラブチームで全国3位に
曽川さんは養殖ホタテ発祥の地・豊浦のホタテ漁師の家に生まれました。野球好きの父の影響で、小学4年から少年野球チームに入団します。
「女なのに野球をしている」とからかわれた時代。他球団で女子のピッチャーが頑張る姿に「私にもできるはず」と奮起するのです。
初めてフライをキャッチした時のうれしさ。1死満塁から抑え切った喜び。肩の強さは監督も目を見張り、ボール投げでは室蘭地区の記録を更新。全道大会出場にもエースとして貢献します。
「世界ではあらゆるスポーツで女子が活躍して認められている。野球は男子だけのスポーツではない」「女子の硬式野球が五輪種目になって、日本代表になるのが夢」。中学時代の弁論大会で、そう訴えたのです。
高校に進学し、野球部の門をたたきます。ただ、マネージャーとしてしか入部できないと告げられました。父が学校にかけ合い、部員として入部できました。平日は部活、週末は札幌にできた女子硬式野球クラブチーム「ホーネッツ・レディース」でプレーしました。
「父がいなければ野球は続けられなかった」。ホタテ漁の合間を縫って札幌に送迎してくれたそうです。

体力には自信がありましたが、高校に入ると埋められない差を感じるように。高野連の規定で、女子は甲子園のマウンドに立つことも公式戦に出場もできません。それでも、クラブチームで全日本女子硬式野球選手権大会の入賞を目指し練習に打ち込み、全国3位に輝いたことも。
札幌の大学に進学後も同じチームで硬式野球を続けました。タレントの萩本欽一さん率いる茨城ゴールデンゴールズの片岡安祐美選手や、ナックル姫の愛称で親しまれた吉田えり選手が注目され始めた頃でした。
「野球がしたくても悔しい思いをした女性はたくさんいたと思う。時代が変わり、競技人口が増えてきたのはうれしい」。その二人とも対戦し、夢をつかめるところまできたのです。
大学卒業を控え、人生の選択に迫られます。そのころには女子プロ野球リーグの道もありましたが、肩の故障もあって限界を感じ、硬式を続けるのは断念しました。
就職するも挫折 人の温かさ知る
ふるさと豊浦に「自分の居場所」

「野球しかしてこなかったので、新しいことをしようと勉強もした」という曽川さん。洞爺湖温泉のホテルに就職しましたが、長くは続きませんでした。
大きな挫折を味わう中、今の職場の豊浦観光振興公社の担当者から声がかかります。25歳の頃です。
「自分は仕事が続かないタイプかも」。何度も辞めようと考えてしまう自分を救ってくれたのは、職場の人たちでした。「辞めることないんじゃない?と言ってもらえて。やっぱり豊浦が好き。ここが私の居場所」。そう思えたのです。
「野球も仕事もチームプレイ。一人ではできない」。今ではともに働く仲間の真ん中にいます。特に心の支えは、主任で経理を務める安田千春さん。「元気でかわいらしいイメージなのに、中身は体育会系というギャップ。責任感が強い」(安田さん)と認め合う間柄で、まるで長年連れ添った投手と捕手のよう。
母になった曽川さん。「子どもを産んで、子育てをしながら働く女性の気持ちがわかるようになった」という半面、これまでは思い至らなかった反省があります。だからこそ通年雇用にこだわり、働く女性を応援したい。「まちに貢献していること、仕事が楽しいと思ってもらえることも大切」と、メニューづくりや陳列も積極的に仲間の声を聞き、生かしています。
豊浦町は2000年有珠山噴火の際、直接の被害は免れましたが、洞爺湖町から避難する人であふれ、曽川さんの小学校も当時、洞爺湖町の児童を受け入れていました。火山性地震や噴煙を見て怖かったものの、「友達も増えて学校がにぎやかになった。野球の仲間も増えた」と、新しいチームメンバーのように迎えたそうです。
そんな経験もあり、2018年の胆振東部地震では、全域停電(ブラックアウト)の中でも店を開け、発電機で携帯電話の充電、水も提供しました。「道の駅として買い物やトイレだけではなく、困った時の力になりたい」。
絶品いちごソフト 物販も充実
仲間とまち盛り上げ「全力投球」
道の駅とようらといえば「いちごソフトクリーム」と、「ホタテフライ級」が二枚看板です。
いちごソフトは豊浦産イチゴ100%のジャムを練り込んでいるのが特徴。バラのような香りの「ジャンボレッド」という品種で、スタッフがじっくりと煮詰めてレモン汁で味を引き締めています。カットイチゴ(冬季はコンポートに変更)も添え、ほのかな酸味と甘さが絶妙です。
「ホタテフライ級」は、ボイルホタテを串カツのように揚げたご当地グルメ。ボクシングWBC世界フライ級元王者で豊浦町出身の内藤大助さんにちなんだそう。「食感の良い生パン粉にこだわっていて、衣のつけ方も工夫しています。ホタテの大きさよって串に刺す個数も日によって変えていて、多い日は幸運かも」。
曽川さんは品ぞろえの充実に力を入れてきました。豊浦自慢のSPF豚肉(特定の菌が存在しない安心な豚肉)の中でも特に飼料の配合にこだわった「旨み麦豚」が道の駅で買えるよう奔走。ほかにも前浜産のホタテ、道内では珍しい本ワサビも人気です。
「道の駅に行けば買える、という場所にしたい」。海や山の幸が豊富な豊浦ですが、旬を逃すと買えないことも。そこで通年で販売できる「加工品を育てていきたい」そうです。


悩んだ時やつらい時、決まっていくのは町内高岡にある牧草地。その先には羊蹄山を望み、かつての火山活動が生み出した風景が心を癒してくれるとのこと。火山灰大地が広がる豊浦では緩やかな丘が連なり、日当たりのよい場所では赤く甘いイチゴが実ります。人もまた、その恵みを受けながら、この地で生きていくのでしょう。
硬式は諦めたものの、今も町内のナイターリーグで野球を続けている曽川さん。「この年齢になって、かつての高校球児たちといい勝負ができる」とワクワクしています。
「少子化の中、魅力的な働く場所がないと町外に出てしまう。豊浦を盛り上げようとしている人たちはたくさんいる。こんな仕事がしてみたい、と思ってもらえるような職場にしたい」。仕事も野球も、全力投球の日々です。