ひらめきとトキメキの人生
フローリストから料理の道へ
今も昔も、火の山の恵み・洞爺湖温泉の観光の中心であり続ける温泉街。近年は、地元の若者の企画からはじまったTOYAKOマンガ・アニメフェスタの大ヒットもあり、湖畔を歩く人の姿を多く見かけるようになりました。
そんな温泉街の片隅に、タイ料理を中心に、和食や洋食、イタリアンなど豊富なメニューが味わえる店があります。レストラン&フラワーKARZZです。
落ち着いた店内で出迎えるのは、代表の池田和子さん。中学の同級生の「大将」と2人で、食の楽しみを提供しています。
岡山県出身の池田さんは、実はサミット会場になったホテルで活躍したフローリスト。今も日本フラワーデザイナー協会(NFD)の講師で、店内にはアレンジメントも飾られています。
でもどうして北海道でレストランをしているの? そこには池田さんの「ひらめき」と「トキメキ」の人生がありました。
海外でフラワーアレンジと出会い
ホテルにスカウト 国際舞台彩る
和子さんは瀬戸内海沿岸、岡山県の南端に位置する玉野市生まれ。父は造船大手に務め、幼少の頃は父が手がけたタンカーの浸水式で大きく手を振る。そんな港町でした。
池田さんのひらめき人生は、結婚式やイベントの司会者になることから始まります。
「当時はみんな結婚が早くて、20歳くらいで結婚していってね。友達の結婚式に出席した時、MCの方がとてもかっこよくて。式が終わった瞬間に、その人にどうしたらなれるか聞いたんです」。うちにいらっしゃい、とすぐ採用になったそうです。
各地のイベントや結婚式の司会を務める中で、たまたまテレビを見ていると、今度は海外移住でいきいきと暮らす日本人を見て「これだ」と、今度は海外に行くと決めるのです。
オーストラリアのシドニーにワーキングホリデービザで渡り、学校に入学。そこに運命の出会いが待っています。
職場の目の前のホテルに、フラワーデザイナーがたくさんの花を抱える姿を見たのです。「ロビーに飾りつけるのを見て、なんて素敵な仕事って思ったの」。心が一気に燃え盛るのです。
帰国後、和子さんは首都圏の専門学校で本格的に花を学び、国家資格のフラワー装飾技能士2級、文部省認定ファションコーディネート色彩能力検定2級を取得。東京の生花店に就職し、フラワーデザイナーとしてブライダルのアレンジを手がけるようになります。
花の魅力を引き出す中で、自身の才能も開花。結婚情報誌のゼクシィに、和子さんの作品が相次いで掲載されたのです。
そんな活躍ぶりが、洞爺湖周辺で2002年にオープンを控えていたハイクラスホテルの目にとまります。「次のステップに進みたい」。このオファーを引き受けたのです。
北海道に移住した和子さんは、このホテルでフローリスト支配人に。わずか6人のチームで、巨大な館内の全てのフラワーコーディネートを手掛けました。
世界の富裕層が訪れる華やかな舞台。ホテルの婚礼の一式、テーブルやウェルカムボードを手がけ、旅の思い出にサプライズの演出のお手伝いもしたそうです。
ある富裕層の男性からの要望は、同伴の女性にバラの花びらで「I LOVE YOU」の文字が浮かぶフラワーアレンジメントを贈ること。食事に行っている2時間で仕上げるため、食事の進み具合をスタッフと連絡を取りながら完成させたといいます。
「彼女がとてもよろこんでくれた、という手紙をいただき、人に楽しんでもらうことを考えるのがすごく楽しかった」。
印象的なのは2008年の北海道洞爺湖サミット。各国首脳の部屋を花で飾ったそうです。
イタリアのベルルスコーニ大統領(当時)は、ベランダ一面を花で飾ってほしいと要望。和子さんはラベンダーなどパープル系の鉢物で彩ったそうです。
このサミットを境に、ホテルの経営方針も変化。自分の中ではやり切ったという思いもあり、退職を決めるのです。
和子さんは海外生活で、タイ料理との出会いもありました。こだわる職人気質から、本場の味を求め書店で本を探し、自身で宮廷料理を作るまでに。舌の肥えたホテルスタッフに振る舞うと好評で、手応えを感じていました。
北海道の食材のおいしさ、そして洞爺湖の美しさにもほれこみ、新たな人生はこの地でレストランを開くと決めるのです。2010年のことでした。
店名は、大好きなお花と和子さんの名前からKARZZとしました。
タイ料理で独立 幼なじみと再会
二人三脚でメニュー多彩に
ともに店を切り盛りしている「大将」は、和子さんの岡山時代の幼なじみ。2013年の中学校の同窓会での再会を機に意気投合。既に調理師免許を取得して飲食店で働いてきた経験を生かし、一緒に営むことに。
KARZZのメニューがタイ料理、イタリアン、和食、洋食と幅広いのは、そんな二人の料理人の出会いとトキメキから生まれたもの。
特にピザ窯にご注目。有珠山の溶岩プレートが中に組み込まれ、遠赤外線の効果で300〜500度の高温で焼き上げます。そのおいしさは、洞爺湖有珠山ジオパーク協議会の「大地のめぐみピザ」第一号に認定されたほど。
カリッとした仕上がりは固定ファンも多く、シーフード、ジャーマンポテトなど毎日10枚限定で振る舞っているそう。
新鮮な地元食材を大切にしているのもKARZZの魅力。二人がほれ込むのは、伊達市の黄金豚や近隣の農家さんの新鮮な野菜、黒毛和牛や伊達ジンギスカンなど。熱々の溶岩プレートにのせて、お好みの焼き加減で食べられるのは最高。
最近は牛ステーキ丼、黄金豚のカツラーメン、カニ雑炊も人気といいます。
「お孫さんとおばあちゃんら家族6人できても、全員食べたいものが何かある。そんなお店です」(和子さん)。
初めて見た洞爺湖の美 忘れず
心尽くしの料理に花を添えて
和子さんがおすすめする洞爺湖有珠山ジオパークのビューポイントは、やはり洞爺湖。
ハイクラスホテルに勤める直前の2001年12月、晴れ上がった冬の日。「雲一つない雪景色。すごくきれいに羊蹄山と湖が見えたんです。こんなところに暮らしてみたい」。忘れられない風景といいます。
住んでみて、町内の有珠山噴火記念公園あたりから中島を望む湖の風景や、温泉街の壮瞥町側のコブハクチョウがいる湖畔もお気に入りといいます。
「お店を持って、さまざまなお客さまと交流できて、おいしかったと言ってもらえる。いろんな国のお話も聞かせてもらえる。すごく楽しいんです」。
新型コロナ禍で観光客は激減。それでも「地元の方がお弁当を注文し応援してくださったのが大きい」と感謝します。
この間に和子さんは人工股関節、大将は腰の手術をしました。「体のメンテナンスの期間も必要だったのかも」と前向きです。
「信頼できる人」(和子さん)、「話すテンポが似ているんです」(大将)。大地の恵みを受けながら、二人三脚でお届けするトキメキいっぱいのお料理。あなたも味わってみませんか?
0142-82-3997