ベリーはベリーでも
ブルーベリー
コールダックが迎える
一味違う農園
国道37号を洞爺湖町から函館方面に車を走らせると、ほどなくイチゴと豚肉のまち豊浦町へ。国道沿いにある、他にはちょっとない観光農園。それがベリーファームとようらです。
ベリーはベリーでも摘みたてのブルーベリーが味わえる農園は、よちよち歩くアヒルがお出迎え。ベビーカーや車いすの方も入園できて、子どもからご高齢の方まで楽しめます。
オーナーの鴨井智士さんは、岡山生まれ、大阪育ちの都会派理系ITエンジニア。なんと英語の先生で英語学習の本も出していて、DIYで仕上げた農園のスタッフには外国人の姿も。
あなたはなぜ北海道へ?理系で英語の先生?しかもなぜ観光農園?なぞは深まるばかり。さっそくお話をうかがってみましょう!
理系×IT×英語=農業!?
意外な北海道移住のワケ
鴨井さんは、岡山生まれの自然が好きな少年でした。「まさに昭和の小学生。ファミコンやドッジボール、大阪に引っ越してからも公園に秘密基地を作って遊びましたね。勉強?全然しなかったです」。
高校時代に化学の面白さを知り、京都工芸繊維大学で有機化学やプラスチックを学びますが、時代はITバブル。パソコンが好きだったこともあり、大阪の企業でネットワークインフラ関係のエンジニアとして働きはじめます。
都会暮らしの中で体調を崩したのをきっかけに退社。その時、あることに気づきます。「大学時代、10カ月間アメリカに行って思いました。英語ができるともっとコミュニケーションが取れる。世界も広がる」。
英語の教員になろうと決意しますが、教員免許は持っていません。調べると、青森の高校は特別にTOEIC860点以上なら教員採用試験を受験できると分かりました。
「あとは試験日から逆算して、戦略を練って修正しながらひたすら勉強」。結果はTOEIC960点。目標までのスケジュールと「勝ち筋」を緻密に計算し実践するという「理系脳」の本領発揮でした。
2010年から2016年まで青森で教員を務め、その後フィジー共和国にわたり、現地校のエグゼクティブオフィサーを経験。内閣府主催の「世界青年の船」事業にも参加し、さらに世界を広げていきます。
鴨井さんは結婚して3人の子宝に恵まれました。奥さまが100年続く、オーストリア出身のルドルフ・シュタイナーの思想に基づく「シュタイナー教育」に共感。シュタイナー学校がある豊浦に移り住むことに。
2019年、当時40歳。英語学習コンサルタントと高校の英語の非常勤講師で生計を立てていましたが「どこでも行こうと思っていました。北海道は大学生の頃、ツーリングで温泉を探して旅をしました。よいところだな、という印象はありました」といいます。
そのころ、後の方向性を決める一冊と出会います。農業起業の本です。
「英語の仕事や不動産事業をしていて、自分で本を出す準備もしていました。教員を続けることは考えていなくて、北海道でブルーベリーの観光農園をすることにしました」。
ただ、農業の経験はなかったため、本の著者と連絡を取り、アドバイスを受けます。そして豊浦で土地を確保。
「イチゴの栽培も考えましたが、すでに実績のある方と同じ土俵になる。経験がなければきっとうまくいかない」と考え、養液栽培で鉢ごとにブルーベリーを育てる観光農園づくりを目指しました。
「世の中は一見、複雑に見える。でもよく見ると単純にできている。ペンキ塗りも、サンドペーパーをかけて養生すればきれいに塗れる。やろうと思えばできる」。できないところはプロの業者さんに頼みながら、自分で園内の設計、レイアウト、施工まで手がけたといいます。
養液栽培は、鉢ごとに液肥を注入して、土の酸性度を一定に保つ仕組み。ベリー本来の力を育む栽培方法で、糖度が高い大粒ブルーベリーが収穫できるといいます。
ブルーベリーの成長をじっくりと待ち、2019年に先行してカフェをオープン。足かけ3年で2021年の農園オープンにこぎ着けます。
ベビーカー、車いす、みんな大歓迎!
自然の中で「手ぶらバーベキュー」
農園には35種類のブルーベリーがあり、カシスなど全部で40種類750本のベリーが鉢で並びます。中には百円玉を超える大きさの実がつき、ほのかな酸味と甘みが口いっぱいに広がります。
ベリーファームとようらの大きな特徴の一つは、「誰でも自然を楽しめる」こと。
子育て中でベビーカーを利用するご家族や、車いすの方でも、バリアフリーでスペースもゆったり。園内はシートが敷いてあるので、ヒールや革靴の方も汚れを気にせずブルーベリー狩りができるのです。
農園をオープンして、まもなく新型コロナ禍に。それでも「自然の中では密にならないし、心配していませんでした。時代にあったものを作れる。これから伸びていくだろうと思っていました」と穏やかな表情。
海外からの来訪が途絶えた分、感染拡大で帰国できなくなった外国人の受け入れや、海外に行けない日本人の個人旅行に目を向けました。「見方を変えればマイナスばかりではない」。徹底したポジティブ思考です。
気になるベリーファームとようらのベリー摘みは、毎年7月中旬から9月初旬まで。時間は無制限、食べ放題とのこと。
おすすめは手ぶらバーベキュー(要予約)。準備や後片付けは不要で、家族や気の合う仲間と農園に行くだけ。地産地消コースは、豊浦自慢のSPF豚(特定の菌が存在しないクリーンな豚)、エゾシカ肉、焼き野菜がセットです。
カフェは、自家焙煎機で焙煎した新鮮なコーヒーが味わえます。園内で育った季節のベリーを使ったソフトクリーム、ヨーグルト、スイーツも楽しめます。「ベリーの酸味と乳製品の相性はバツグン。ぜひ味わってほしい」とおすすめ。
併設のログハウスで飲食でき、全メニューのテイクアウトもできます。
レストスペースでは、元気いっぱいのコールダックがお出迎え。鴨井さん自身が卵からふ化させていて、池に浮かび、歩く姿にいやされます。
こうして鴨井さんは、夏はブルーベリーの観光農園、冬は英語と企業経営というライフスタイルを確立。ジオパークの大地に根を下ろしたのです。
鴨井さんが取り組む、ブルーベリーや地元食材を中心とした地産地消。そして新しい発想で持続可能な観光を目指す姿勢は、洞爺湖有珠山ジオパークの考え方と一致。ジオパーク・パートナーに登録され、活動を続けています。
お気に入りは夕日沈む豊浦の海
ドライブがてらベリーファームへ
鴨井さんがお気に入りの風景はどこでしょう?
「豊浦はいいところですよ。山も海も好き。家からは噴火湾が見えるのですが、そこに沈む夕日がとてもきれい」。視線の先には、カムイチャシの海岸があります。
同じ豊浦町内の礼文華にあるジオパークのみどころ・カムイチャシは、約300万年前の海底噴火の時にふきでた溶岩などの中で、硬い部分だけが波の浸食に耐えて残ったというビューポイント。この岬の上が「カムイチャシ」と呼ばれ、アイヌの人たちが大切にしてきた場所です。
ジオパークを散策した後、ちょっと足を延ばせば、新鮮なブルーベリーや手ぶらでバーベキューが楽しめる観光農園あり。
「来るたびに変化がある、1日ゆっくりと自然の恵みが味わえる空間をつくりたい」。
そんな思いが形になったベリーファームとようら。一歩足を踏み入れるだけで非日常が広がる、自然いっぱいのおすすめのスポットです!