西胆振で必ず名前があがる
ジオパークガイド
自然大好きおてんば娘の
人生第二章
洞爺湖有珠山ジオパークのガイドといえば、必ず名前があがる江川理恵さん。伊達市を拠点に活動する、西胆振の自然ガイドのプロ・Sotoasobu(ソトアソブ)の代表です。
地域の魅力たっぷりのパッケージされたツアーもありますが、江川さんが力を入れているのは、一人一人の思いに寄り添ったオーダーメイドのツアー。あなたを冒険の旅へといざないます。
洞爺湖有珠火山マイスター、国際イベントのアドベンチャートラベル・ワールドサミット(ATWS)でもアクティビティーガイドを務め、地域を、そして大地とヒト・モノ・コトをつなぐスペシャリスト。アドベンチャートラベルが目指している「内面から変わる心の冒険旅行」こそ、追い求めてきた旅なのだそう。
江川さんにとってガイドの仕事は「自分自身の原点回帰」といいます。
岡山で生まれたのにどうして北海道に? 外遊びが好きなのはなぜ? そこには幼い頃に見た風景と、有珠との意外な接点がありました。
有珠湾の風景に涙し 有珠山に「恋」
ガイドは幼い自分への原点回帰
江川さんは、瀬戸内海に浮かぶ岡山県の北木島生まれ。幼少期から活発で、商社マンだった父がこの島で真珠養殖場の場長をしていた頃、養殖いかだの周りを跳ね回って遊んでいたそう。
小学生の頃は、学校が終わると外に飛び出し、図鑑を手に虫や花を調べて回る。年上の近所の兄ちゃん、姉ちゃんと山やキャンプに出かけるおてんば娘でした。
父の仕事の都合で三重、千葉、神奈川など、引っ越し10回。どこへ行っても外遊びは欠かすことはなかったといいます。
そんな江川さんは「お客さまの旅の相談相手になってプランを作ってみたい」と、観光の専門学校に入学。しかし時は1980年代。団体旅行の全盛期で、お決まりコースしか売れない時代。深く失望していたところ、高校の担任からの情報で公務員試験を受験し、小学校に勤めはじめます。
この頃は国内を、JR時刻表を手に一人旅。夏休みはユースホステルに住み込みボランティアでヘルパーに。山登りやスキー、旅人と交流を深めます。
人生いろいろ…。決して平坦ではありませんでした。北海道に移住したのは38年前。地域になじめず、心を閉ざす日々を送ったそうです。
辛い時、どうしても海が見たくて通った伊達市の有珠の海。小さな島がある風景に、ぽろぽろと、涙が止まりませんでした。
30年ほど前、神奈川に住んでいた両親と伊達で暮らすようになりました。父が他界した時、当時69歳だった母が、幼い頃に夢を描いた駄菓子屋を伊達市にオープン。江川さんは、駄菓子屋と同時オープンさせたカフェを切り盛りしながら、スキーのインストラクターで暮らしを支えました。
ある日、スキーのインストラクターをしていたホテルからガイドの仕事もしてほしいと頼まれます。
安易に引き受けてしまったかもしれない。「勉強しなければガイドは務まらない」。そう気づき、膨大な量の勉強をこなし、遠方の研修にも出かけます。体系立った知識がほしいと、多くの資格を取得しました。
それにしても、有珠の海になぜこんなにも惹かれるのだろう。
火山マイスターの友人から、有珠の海の風景は、かつて有珠山が岩屑なだれを起こしたことによってできたものと教わります。「この島々と有珠山がつながっていると分かって、私、有珠山にほれちゃった」。
NPO法人有珠山周辺地域ジオパーク友の会会長の三松三朗さんのもとを訪ねた江川さん。三松さんがつむぐ地球と火山の壮大なストーリーに、また涙するのです。「絶対に火山マイスターになる」。猛勉強の末、合格。「地球愛は三松さんから教わりました」。
子どものころの楽しかった外遊びの思い出が、今の自分をつくっている。「ガイドは、私にとって原点回帰」と気づくのです。「有珠に惹かれるのは、私が島生まれだからだ」。
2018年、アウトドアガイドSotoasobuの代表として活動を開始。母が倒れ、カフェと駄菓子屋はお休みして翌2019年から専業のガイドとなります。
江川さんの行動力は、人のつながりを生み、日高で毎年秋に開かれている北海道アウトドアフォーラムの実行委員の誘いを受けます。トップレベルのガイド、観光事業者など、道内のアウトドア関連の人たちが集う場。そこからATWSの参画につながります。
アドベンチャートラベル(AT)は「自然」「アクティビティ」「文化体験」のうち、二つ以上を満たした、アメリカやヨーロッパ、オーストラリアで人気の旅。ATWSは、各国から旅行業者やATの関係者らが集う、世界規模の商談会です。
ATとは、従来の旅行業者と旅人のつながりだけではなく、環境、地域も関わり、それぞれが幸せを感じられる旅。一度は失望した観光の世界ですが、「これこそが私が提供を目指した旅だ」と感じ、その理念を追いたいと思ったのです。
夢の観光スタイルとの出会い
一人一人に寄り添うツアー提案
Sotoasobuが目指すのは、「いまよりもっと地球を好きになる」体験を提供すること。
「何げない風景にも大地の歴史があるって伝えることで、訪れた方が家に戻り、自分の住むまちを改めて見た時に、感じて、今までよりもっと故郷を好きになってもらいたい。そして日本を、世界を、地球を好きになってもらいたい。好きなものは大切に守りたいと思いますから」。
江川さんはツアーの予約があると、事前のヒアリングに時間をかけます。どんなものが見たいのか、どんな体験がしたいのか、じっくり寄り添います。
海、森、湖と自然たっぷりの子どもが主役の特別ツアー、世界ジオパークに認定された有珠山の火山活動に触れ「減災」について学べるツアー、雪原をスノーシューで散歩し、冬の洞爺湖を一望できるショートトリップ。要望に応じて自由自在に描きます。
注目は、江川さんのアドリブ力。事前に予定したツアーでは、洞爺湖有珠山ジオパークのテーマをメインにプランを組んでいましたが、散策するうちに「廃線」「廃墟」好きの方と分かり、行程を変更。旧国鉄胆振線の跡などをめぐり喜ばれたそうです。
「ガイドは歩いてなんぼ。仕事がないときはほとんど歩き回っています。そうすれば今の時季ならあそこはこんな感じというイメージができます」。常に面白そうなものを探して歩き続け、引き出しが豊富だからこその対応力です。
2023年9月、ATWSのエクスカーションが北海道内で行われました。江川さんは白老町の国立アイヌ民族博物館ウポポイ、洞爺湖有珠山ジオパーク、黒松内町をめぐる4泊5日のツアーのうち、洞爺湖町・壮瞥町・伊達市のアクティビティガイドを担当。当日まで4年間、チームでプランを練ってきました。
当日、アメリカ、ドイツなどから訪れた10人を案内しました。
終了後、こんなことがありました。
参加したブラジル人インフルエンサーがインスタグラムに投稿。そこには江川さんが一番伝えたかった「火山との共生」「地球に生まれたことを幸せに思ってほしい」との記述があったそうです。
有珠山が創造した有珠湾の風景
出かけよう 大地の「宝探し」
江川さんが大好きな風景は、やはり伊達市のアルトリ岬周辺。「海と島がセットの風景が好き」といい、特に小島のポロモシリなどを見渡す風景がおすすめ。
「有珠山の活動の中でも、約8000年前、山体崩壊して岩屑なだれを起こして流れ山をつくったストーリーはとても重要。そこに豊かな漁場が生まれ、縄文の時代から人がたくさん住み、人の歴史につながっていく」。そんな特別な場所なのです。
「今目の前にあるものすべてに意味があります。それを掘り起こす楽しみを伝えたいですね。大地のストーリーは、すべて人をふくめた地表の生き物や植物たちの営みにつながっている。それがまさにジオパークなんです」。
だからこそ「ぜひ地域を歩いて、自然を見て、もっと自然に親しんでほしい」と願うのです。
Sotoasobuは、あなたがまだみつけていない、心の中の宝物に出会う旅に連れ出します。江川さんがお届けする、わくわくドキドキの旅に、あなたも出かけてみませんか?