MENU

My Geopark Story 12
Loco Lab(ロコラボ)

Loco Lab
荒井秀樹さん

小学校に入学する前の1977年夏。伊達市の自宅の窓から見た有珠山は、黒々とした噴煙を上げていました。あれからもうすぐ50年。Uターンした地元で山を学び、洞爺湖有珠火山マイスターとしてガイド活動に励むのは、Loco Lab(ロコラボ)の荒井秀樹さん。

ITエンジニア、伊達では珍しいビアバーの店主、そしてまちづくり活動に取り組む熱い人、と多彩な「顔」を持つ団塊ジュニアの世代。偶然にも10年という節目に訪れる転機に向き合いながら、地域のコミュニティーを大切にしてきた確かな歩みがありました。

自然とパソコンを愛した少年時代 
脱サラし念願のビアバー開店

荒井さんは伊達市に生まれ、高校生まで過ごします。「小学生時代はカブスカウトに所属して、火おこしやキャンプを体験しました。布生地のテントを借りて、道具もなにもなく近所の原っぱでキャンプをしましたね」。キャプテン翼の影響を受けて、部活動ではサッカーにも打ち込みます。

一方で、少年時代はパソコンに興味を持ち、当時は高価だったPC−8801やX1に憧れ、友達とプログラムを組んだことも。

第二次ベビーブームの世代。受験戦争、就職氷河期が待っていました。秋田大学に進み、鉱山学部で物質工学を学びますが、研究者の道は望まず、神奈川の企業に就職。そこにIT部門があり、臨床検査の分析器とパソコンを連携するシステムの開発に携わることになったのです。

実家のある伊達に戻ろうと決意したのは30歳の頃。母を亡くし、実家には体調を崩した父がいました。伊達市内ですぐに働くつもりでしたが、想像以上に地元には仕事がありませんでした。新日鉄(現日本製鉄)の関連会社にシステム開発の求人があり、その後10年務めます。

その再就職の直前の2004年、後の人生を変える旅がありました。アイルランドに1ヶ月滞在し、アイリッシュパブと出会ったのです。

「昼は駄菓子屋、夜はバー。近所の大人も子どもも歩いて行ける距離にパブがたくさんあり、ワイワイやっている。ふらっと飲んで家に帰る文化がありました」。店がきっかけになって人がつながる。伊達を訪れた人が、地元の人と気軽に交流できる空間ができないか。思いは強くなっていきます。

その旅から10年後の2014年。伊達市にLOCO BASE(ロコベイス)を開店します。「一度は店を持ちたかった」という荒井さん。札幌のビアバー・米風亭にひかれ、伊達で店を構えるならここしかない、と鹿島町にある明治時代にできた土蔵倉にほれ込み、2年がかりで念願がかなうのです。

「地域のコミュニティが作りたかった。地元に戻ってきて、人とつながって何かをしたいという思いがあった」。夜な夜な、クラフトビールを片手に、たくさんの交流が生まれていきます。

荒井さんがまちづくりに取り組む根っこにある、Loco Lab(ローカル・コミュニティー・ラボラトリー)という発想。

「最初につくった全体の考え方。事業になるかはわかないけれど、地域に根差した活動をしたかった。飲食店はその一つ」。店という情報を共有する場づくりに加え、SNS(交流サイト)を使った地元情報の発信、イベントや講演会の企画などに力を入れていきます。

「だてびとサポーターズ(Date GT)」という活動にも取り組んでいて、伊達市にゆかりのある芸術、文化、スポーツの分野で活躍する人を今も応援し続けています。

地元にいても知らなかった有珠山 
火山マイスター認定 防災減災に力

「伊達出身なのに、有珠山のことをよく知らない」。1977年の噴火はうっすらと覚えてはいるものの、2000年の噴火当時は札幌にいて、噴火翌日には首都圏に異動に。伊達市役所から中継するニュースをテレビで見て、被害が出て避難している人がいることを知りました。

「伊達に戻ってきた当時、地元の人たちは有珠山のことをあまり話さないことに気づいた」。NPO法人ジオパーク友の会の活動や、有珠山学習会といった行事への参加を通じて興味がわき、自分も火山マイスターになろうと決意。2018年に試験をパスし認定を受けました。

火山ガイドとして防災・減災の視点を大切にしています。「高校生が有珠山周辺に旅行で来ても、おそらく自分からは山や災害遺構の散策はしない。修学旅行など学校で企画したものではあるけれど、いずれ大人になって火山の近くに住むかもしれない。ここで何かを感じてもらいたい」。

自然の力、そして火山と共生する意味を伝えたいという思いがあります。

「地元にいるなら、地域ともっと関わりたい」。その選択肢には市議会議員もありました。2019年に初当選。市議会の一般質問では防災・減災などを取り上げ、普段歩いていて気づく課題を積極的に市幹部にぶつけていきます。

「2000年噴火から年数が経ち、次の噴火への備えを伝えなければという思いが強い。市役所の職員も半分は噴火を知らない世代。そろそろ噴火するかもしれないと、住民、事業者、自治体関係者、みんなが日々自分ごととして気にかけるようになってほしい」と願っています。

挑戦と挫折の団塊ジュニア世代 
地域のためにできること模索

10年という節目に、大きな決断をしてきた人生。2025年には本格オープンから10年でLOCO BASEを閉めることに。新型コロナ禍を経験し、バーの役割や飲食店でのコミュニケーションが変わってしまったと感じています。「現実を見て、必要とされる事業をしたい」と決めたのです。

「やる時より、やめる時の方が決断って難しい。飲食店も、やらなかったら今でもいつやろうか、となっていた。これでよかった」。市議の再選もかないませんでした。

いつも「大丈夫だ」と楽観的にとらえてきた人生ですが、「なんとかするには、やるべきことを必要な時にやっていないと大変」と振り返ります。「でも外からの要因ではなくて、すべて自分で決めてきた結果」。悔いはありません。

「この先どう生きるか、まだはっきりとは決めていない。でも一つに縛られるとできなくなってしまう。体力的にも何かできるのはこの10年くらい。本当にやりたいことをしていきたい」と考えています。

幼少期からキャンプを楽しみ、登山が好きという荒井さんは、火山マイスターとして「地域でのガイド活動は大切にしたい」そうです。

有珠山ロープウェイの山頂駅から目指す火口原には思い入れがあるといいます。「初めて火口原に向かった時、山の中にこんな場所があるんだと知りました。登っているはずなのに降りる感覚が面白くて。噴火したらまた歩けなくなる、今だけの場所」。そうした大地の変動やダイナミズムを伝えたいといいます。

生まれた伊達市に戻り、伊達のために生きてきた人生。これからはより広い視野で、地域コミュニティーの盛り上げに関わっていきたい。そんな新たな10年を模索する日々です。

Loco Lab
(ロコラボ)

飲食、文化、芸術、アウトドアを通じて
地域コミュニティの場を提案

locolab.jp@gmail.com